見たことのなかった種類のアジャスター
今日のこの記事では、見慣れないバイオリンのアジャスターの話題があります。
現行品として流通しているものではないのでは、と思いましたが、ネット上を隈なく探してみるとAmazonの販売ページで一つだけヒットしました。
バイオリンのアジャスターは、G線などを含めて全ての弦につけるのであればL字型のものがよく使われます。また、E線用としてはL字型のものではなく、ループエンドの弦にマッチしたもう少し小さいアジャスターが多く用いられます。これらのアジャスターはWittner社やGotz社が製造しています。
もちろん他のメーカーのものもありますが、一般的にはWittnerやGotzのアジャスターが選択されることが多いように思います。
アジャスターが変形している様子
ここからが本題です。今、購入を前提としてお借りしている楽器が手元にあります。この楽器に先ほど紹介したアジャスターがついているのですが、どうも年季が入っているようで…
かなり使い込んでいるように見えますが、見た目だけではありません。一見これはWitterのL字のアジャスターの形に似ているように思いますが、
この角度から見てみると、アジャスターのL字が本来の直角の角度ではなくなっていることがわかります。
いえ、正直に述べればこのアジャスターが本来どんな設計のものだったのか確証がありません。
しかしこのフックの部分が弦の張られた方向と垂直に近くなるには、相当ネジを回し込む必要があります。L字の逆側がバイオリンの表板に近づいて心配になる程です。やはりこの状態は当初の設計通りの形ではなく、老朽化で変形してしまったのではないでしょうか。
お借りした楽器の場合は絶妙な角度でE線のボールがアジャスターのフック部分に引っかかっていたのですが、ペグとアジャスターで音程を合わせているうちにボールがアジャスターから滑り落ちてしまいました。「滑り落ちた」と言っても弦が切れた時と変わらない衝撃です。
E線が切れた時の「バキッ」という鈍くて鋭い音と衝撃は、何度経験しても慣れないものです。
アジャスターをつけずにE線を張った時の音色
「この楽器を買います」とお店に伝えに行くときにアジャスターを交換してもらえば良いのですが、それまでG線、D線、A線の3本しか弦がない状況がなんとなく気にかかります。4本の弦で駒から表板へ力が入っていた方が偏りが無くて良いような気がするのです。
なので、間に合わせということでアジャスターなしで直接E線をテールペースからペグに渡して張ります。細いスチール弦ですから音程の微調整はできません。E線をある程度合わせたら、それを基準にA線、D線と五度下に向かって合わせていきます。
弾いてみると、驚いたことに刺激のないE線の音が出るのです。A線以下の弦もちょっと薄い音のような気がします。てっきり余分なパーツがなくなった分、楽器やパーツが振動しやすくなって大きく魅力的な音が出ると思っていたのですが。
アジャスターは軽ければ軽い方がいい、できることならば無い方が良い*と思っていましたが、たまたま試した結果はそうでなかったのです。
*一つの例として、Wittner社などが作っているギア内蔵型のペグを導入することでアジャスターなしでも細かなE線の調弦ができるようになります。
どのようなアジャスターを選ぶのが良いのだろうか。
アジャスターを選ぶにあたっては、これはもう試してみるしかないのでしょう。ただ、チタンなどの軽い素材が一番だという決めつけは良くないと推察するようになりました。
チタン製のアジャスター自体はかなり前から存在したように思いますが、最近では新作として売られている楽器にSTRADPETのチタン製アジャスターが付けられているのを時折見かけるようになりました。
もちろん相性良くこれらが合う楽器もあるのでしょう。自分もこれまでチタン製のアジャスターを愛用してきました。これまでL字型のアジャスターは楽器の音に悪い影響があると決めつけていたところがありますが、正しくない考え方だったようです。
このだらしない角度になったアジャスターはもう使えそうにないので替わりのアジャスターを探しますが、だいぶ骨の折れる道のりになりそうです。
参考に、今回変形していたアジャスターの重さはキッチンスケールで測ると5gです。これをつけた時の音は、良かったのです。